どこまでも広がる青空。
絶好の昼寝日和の中、池袋にある来良学園の屋上で帝人と青葉は対峙していた。


「あの、青葉君。話って何かな?」
「単刀直入に言います。帝人先輩、折原臨也たちのところなんかやめて俺たちの所に来ませんか?」
ぴくり、と帝人の体が小さく跳ねる。
「先輩がダラーズの創始者で、1年前の事件を起こしたことも知ってます。俺たちはそんな先輩が欲しいんです。」

くっだらない。
青葉の言葉を聞きながら帝人は”人のいい先輩”の顔を消した。

「で?」
近くにあったフェンスに寄りかかって帝人は青葉に尋ねる。
「黒沼君はそれを言って、僕を引き込んで何がしたいの?ダラーズが欲しい?欲しいんだったら今すぐにでもあげるよ。」
冷えた瞳が青葉を射抜く。
先程まで『青葉君』だったのに今は『黒沼君』と呼ばれたことに青葉は彼の何かに触れたことを悟る。
「お、れたちはダラーズが欲しいんじゃない。先輩が欲しいんです。」
「おんなじことだよ。それにね、君が臨也さんを妙に敵視してることは知ってるし色々なことを嗅ぎ回ってることも知ってる。てっきり臨也さんかダラーズを潰したいのかなぁなんて思ってたんだけど…」
まさかこんな熱烈な告白されるなんて思ってなかったよとくすくす笑う。
が、その瞳は絶対零度を保ったままだ。
ひとしきり笑った後、帝人は徐に忍ばせていたナイフを取り出した。
「…それで俺のことを刺すつもりですか…?」
「ううん。そんなことしないよ。喧嘩にでもなったら僕の方が明らかに分が悪い。」

この時、黒沼青葉は初めて、そう、竜ヶ峰帝人という人間と知り合ってから初めて彼が心の底から楽しそうに微笑むのを目撃した。

先程までその瞳に宿していた冷たさなど一切消してどこまでも純粋に、楽しそうに笑う帝人。
それはどこか神聖さを帯びて目がそらせない程に美しく、そしてどこまでも恐ろしい。

青葉の前で帝人は持っているナイフをゆっくりと己の首筋に当てた。
「っ!!?」
「ごめんね、黒沼君。僕あの人たち以外いらないんだ。」

顔も知らない他人の100人や200人の命よりも、正臣よりも園原さんよりも、新羅さんやセルティさんよりも、もちろん君よりも、僕はあの人たちがいい。

「だからごめんね。諦めて。それでも無理にっていうんだったら…」

力を込めた右手。
帝人の首筋から一筋の血が流れる。

「このまま、首掻っ切って君の目の前で死んであげる。」

楽しそうな笑みを保ったままで流れる血の量は増していく。

しばらくして折れたのは青葉のほうだった。
「わかりました。これ以上粘って、貴方の下僕に殺されたくはありませんから。」
両手を挙げ白旗を振る青葉に帝人も握っていたナイフを首から外し、ポケットへと戻す。。
「よかった。あ、これあの二人に絶対言っちゃダメだよ。調子にのっちゃうから。」
「…俺はわざわざあの二人を喜ばしてやる程優しい人間じゃありませんよ。」
「そう?じゃあチャイム鳴りそうだから教室戻るね。」
ひらひらと手を振り屋上を去る帝人。
ドアが閉まると同時に乾いた音が辺りに響いた。






だって、ひとかけらすらあげられるとこなんてない。



(だって君はあの人たちじゃないから。)

(悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!)




fin.



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