「帝人君…」
「帝人…」





困っていた。池袋最凶と呼ばれる男と近づきたくないといわれる情報屋の2人はそれはもう、誰が見ても明らかに困っていた。


と、いうのも彼らの唯一にして最愛の少年が物凄く不機嫌だからだ。












小さいアパートの帝人の家に2人は呼び出された。
久々の、しかも愛しい人からの呼び出しに意気揚々と向かう二人。
(途中で出くわして、まあひと悶着あったりもしたが。)
家の中に入った途端、とりまく空気に2人は固まってしまう。

絶対零度。

まさにこの言葉が相応しい。

「ねえ、帝人君。どうしたの…?シズちゃんが何かした?」
「てめえ、どうしてここで俺の名前が出てくんだよ。何かしでかしたのなら手前以外にありえないじゃねえか。」

「うるさいです。」

ようやく喋ったかと思ったらこちらを一切見ずにひやりとした声で切り捨てられる。
こうなった帝人を宥めるのは至難の技だと経験上2人は知っている。

「帝人、一体どうしたんだ?」

恐る恐るといった感じで静雄が帝人に近寄っていく。
てっきり張り倒されるかと思ったが、意外にも勢いよく振り返ったかと思えばずしり、と腰に重みを感じて見れば、帝人がしがみついていた。

「え、ちょ、帝人君…!!?」

これに驚いたのは臨也だ。
何気に機嫌の悪い帝人に殴られればいいと思っていたのに予想は大いに外れた挙句、帝人君から抱きついてもらえるなんて!
と、歯軋りでも聞こえてきそうなくらい(実際していたかもしれないが)悔しがっていたのだが、何か様子が変なことに気がついた。

「なになに、シズちゃん。どうかしたの?」
「え、あ、いや…」

ここまで平和島静雄がうろたえるのも珍しい。
ひょい、と覗き込んで折原臨也は固まった。

「帝人、どうした?何かあったのか?」
「帝人君、本当どうかしたの?誰かに何か言われた?」

静雄がその小さな頭を撫で、臨也が丸くなった背をさする。

泣いているのかと思えるくらいに帝人は震えていた。

「…今日、怪我したって聞きました。」
「なんでもねえよ。ただいつものように絡まれただけだし。」
「そうそう、ちょーっと数が多かっただけで、かすり傷程度だよ。」

2人が言い終わるや否や乾いた音が辺りを包む。
2人の頬を帝人が張り飛ばした音だ。
呆然とする2人を帝人の鋭い視線が射抜く。反論を許さない瞳。
これが帝人以外の人間だったら命の保障はないだろうが、生憎と静雄と臨也はこの少年に滅法甘く、そして弱い。

「僕は嫌です。2人が怪我をするのが嫌だ。仲が悪いのはいいです。仕方ないです。でも、喧嘩するのは嫌です。怪我をするのは嫌です。傷つくのは嫌です。」
「帝人君。」

落ち着かせようと伸びた臨也の手を振り解く。

「怪我したって聞いたとき全身が凍るかと思ったんです。僕は弱くて何も出来ないから助けることなんて出来ない。どちらかに置いていかれるくらいなら僕も一緒に死にます。」

その瞳に映るのは紛れもない決意と真実。
可愛い可愛い告白に不謹慎ながら頬が緩むのをとめられない。

「まるでプロポーズみたいだね。死んでも一緒にいてくれるんだ?」
「…2人は僕のですから。」
「安心しろ。俺たちはお前を置いて逝ったりはしねえ。」

ぽんぽん、とその頭を撫でる。帝人が好きなことのひとつ。

「約束しましたからね。」

その笑顔が守れるなら。
まあ、互いの仲を譲歩してやってもいいかな。なんて思う臨也と静雄だった。





寂しがり屋な君のために、ずっと一緒にいてあげる。






(でも、怪我したりしたのにはそれなりに怒ってるので2週間、僕の前に現れないでくださいね。)
((マジ!?))



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