"ノミ蟲"



長兄が高校に入学してしばらくしてからこの名称をよく聞く様になった。
それと同時に制服を汚したり破いて帰ってきたりもするようになり、見つけるたびに問答無用で剥ぎ取っては洗濯したり繕ったりとしていたおかげで家庭科の成績はいつも5だ。
僕の様子をチラチラ見ながら居心地が悪そうにしているときも、その日の夕飯の時もやっぱりその単語が出てきた。
あんまりその人の話ばかりするものだから思わず「そんなにいつもその人と一緒にいるんだね。」と言うと凄い剣幕で「やめてくれ、気色悪い。もう二度とそんなことを言わないでくれ。」と懇願されたのでそれ以降、思ってはいても口に出すことはなくなった。
それでその話は終わり。になるはずだったのだが…


「やぁ、こんにちわ。それともはじめましてかな?君が帝人君?思ったよりも小さいねぇ。」


どうしてこんなことになっているのだろうか……












正臣が用事があるというので1人で今日の夕飯の献立を考えながら歩いていた帰り道。
突然、その人は現れた。

「ねぇねぇ、帝人君でしょ。シズちゃんの弟の。」

黒い学ランを来たその人は折原臨也と名乗り、帝人の横を当然のように歩いた。
オリハライザヤという名前に聞き覚えはなかったが、話の流れからどうやら度々長兄の話に出てきた”ノミ蟲”さんはこの人らしい。

「あの…何か用ですか…?」

このままでは埒があかない、と近所の公園まで行き、ベンチに腰掛ける。
すると折原さんはにこりと笑って隣に当たり前のように座った。

「いやぁ、あのシズちゃんが溺愛してやまないっていう弟の噂は聞いてたからさ。一体どんな子なのか見ておきたいと思って。」

よくもまぁそう直球に本人を前にして言えるものだ。

「情報の通りだよ、--竜ヶ峰帝人君。」

いきなり旧姓を言われて思わずベンチから立ち上がり、折原さんから距離をとる。
もう数年も前に捨てた名前で呼ばれるのは正直不愉快だった。

「あはは、そんなに警戒しないでよ。恐がらせちゃったら謝るからさ。」

ひらひらと手をふる彼に思わずランドセルを持つ手に力を込める。
あぁ、この人は静にぃの嫌いなタイプだ。
真っ白になった頭の片隅にそんな言葉が思い浮かぶ。

「そんなに嫌い?君を置いてった両親が。」

口角を吊り上げる彼が視界に入った瞬間、血の気が引いた。

震える拳を何とか抑えて折原さんに微笑んでみせる。


「…そうですね。それでも、竜ヶ峰の両親には感謝してるんですよ?…そのおかげで今こうしていることができるんですから。」

きょとん、と折原さんは目を丸くしてから大声で笑い出した。
今度はこちらが面食らってしばらく様子を見ていると、ひとしきり笑って落ち着いたのかその赤い瞳でじっと見つめられる。
気づいたときには距離を詰められてその端正な顔が間近にあった。

「はは、面白いね君。」

そして唇に温かい感触。
次に響き渡る轟音。
引かれる体。
突き刺さる自動販売機。

「いぃ〜ざぁ〜やぁ〜くぅ〜ん…!」

聞いたこともないような長兄の低い声で我に返る。

「え、静にぃ…?」
「てめぇ、人の弟に何してくれやがったんだゴラァ…」
「シズちゃんってば過保護〜。なになに?弟の交際にまで口を出すような舅って嫌われるよ。間違いなく!」
「気色悪いこといってんじゃねぇ!帝人はてめぇにだけはぜってぇやるか!」
「そんなの帝人君の自由じゃん。本当早く死ねばいいのに!じゃ、またね。帝人君。」

そう言って折原さんは足早に去っていってしまった。
取り残されたのは荒く息を吐く静雄と茫然自失な帝人だけ。

「大丈夫か、帝人。…帝人!?どうした!?あいつに何かされたのか!?」

その顔を覗き込んだ静雄がいつになく慌てている。
頬を流れる温かい感触に気づけば帝人は自分が涙を流していたことを知った。

「…殺す。あの害虫。」
「や、あの大丈夫だよ静にぃ。ちゅーされたくらいだし、怪我とか何もしてないから。」

ぴしり、と場の空気が凍った。(気がした。)

「あんのやろぉ…絶対殺す。」
「や、あのちゅーされたことが悲しかったとかじゃなくて、いや悲しかったんだけど、とりあえず殺しちゃダメだよ。静にぃと一緒にいられなくなるの嫌だし。」
「ぅ…まぁ、帝人がそういうなら…」

制服の袖でごしごしと目尻を拭われる。
ちょっと強いけどでも優しいその手つきに折原さんに言ったことを思い出す。
言ったことに嘘はない。
こうして静雄と幽と家族になれたことは本当に嬉しいと思ってるし、これからもずっと一緒にいたいとも思う。
でも…

「図星さされて泣き出すなんてまだまだだよね…」
「ん?何か言ったか帝人。」

未だ心配そうにこちらを伺う静雄に帝人は笑顔で首を横に振った。

「何でもない!それより静にぃ、晩御飯なにがいい?」
「帝人の作るもんなら何でもいいぜ。」
「う〜ん。何でもいいが一番困るよ。」
「じゃ、唐揚げ。」
「は〜い!」







だって今が一番幸せ。









(…あれってファーストキスっていうのかな。)
(いわねぇ。それでいうならもう俺と幽で奪ってるぞ。)
(…それ、いつの話をしてるの静にぃ///)





fin.

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